【レビュー】数の世界 ~ とがのえみ先生 ~
理系子育てアドバイザーでありまっちゃん先生のご友人のとがのえみ先生から『数の世界』(松岡学)のレビューをいただきましたので、ここに掲載させていただきます。
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所感:まっちゃん先生の『数の世界』を読んで
20数年前、私が高校2年生だった頃、はじめてブルーバックスの本を読みました。タイトルは『虚数iの不思議』(堀場芳数著 ブルーバックス)でした。思い返してみれば、それが私が初めて手に取った数学書だと言えます。
それから、大学、大学院と数学を専攻したくさんの数学書を読みましたが、高校生にとってブルーバックスは、はじめて専門書としてその学問の扉をたたく、心の踊る巡り合わせだといえるのではないでしょうか。
そんな目線から見て、今回、まっちゃんが出版された『数の世界』(ブルーバックス)は、高校生にとってとびきりワクワクの詰まったギフト。また、大学生にとっては、高校数学から大学数学への橋として教材化された副読本として大いに活用できる、そんな印象を持ちました。
今回メインテーマとなっている「四元数」は、大学数学でも深く触れられることがなく、これをテーマにして高校生から親しめる形で書籍を展開されているのは斬新で面白い構成だと感じました。
目次の前に添えられた「数の冒険マップ」では、複素数の園庭、四元数の森、など、キャッチーなタイトルで読者の心を惹きつけ、親しみを感じさせます。
はじめに、誰でも豆知識として知って役立つ、数の起源について、60進法や当時の天文学的な見解、絵文字で表された数字と一緒に紹介から、丁寧に展開されています。
負の数が人々に認められるまで2000年近くかかったとの史実から、人間が目に見えないものへ抱く恐れ、不信ということにも言及されていて、「数学が精神の学問である」ことのまっちゃんの数学観に共感しました。
続いて、高校までの数学で学ぶ、自然数から実数へと、数が「閉じている」という大学数学的な観点から、整理をされていて体系的に述べられていました。中学の教科書でも取り上げられている、分配法則や結合法則に対しても、日常生活における
・晩ご飯を食べる
・お風呂に入る
・寝る
などの具体例を用いた説明にまっちゃんの親しみやすいお人柄を感じます。
デリケートな「0で割ること」についても、小学生にでもわかる、わり算やかけ算を使った説明から、中高校生が定期試験で減点されるのが嫌、というような心情にも寄り添い、y=1/xの漸近線を用いて「0」↔「∞」との橋を架け「∞」の魅力を視覚的に伝えています。
続いて虚数i。2乗してマイナスになる数、想像上の数、「i」。第1回本屋大賞を受賞した、文学者の小川洋子さんの『博士の愛した数式』では、博士が一人の家政婦さんとその息子に、「i」はここにあるんだよ、と、自分の胸に手を当てる場面があります。
数学では、既知の概念をもとにして新しい発想へと想像の挑戦(創造の挑戦)を繰り返すのですが、「あってもいいじゃないか」と、受容する数学者の献身的な研究には頭が上がりません。
本書では、この数「i」が登場した歴史的な経緯と関わった数学者が紹介されていました。
さらに虚数についての基本的な理論を納め、高校数学の要ともいえる、ベクトル、三角関数について、高校生にも学べるように図を挿入しながら述べられていました。
途中で紹介されるオイラーの公式、「eのπi乗+1=0」について、証明の概略と合わせて、「世界一美しい式」と紹介し、「感性や好みで眺めてください」と提案されていて、数学の神秘と情緒をソフトに読者の心に訴えかけます。
メインテーマとなる四元数の章においては、発見者であるハミルトンの生涯と複素数を超える数としての四元数の発見について述べ、四元数の定義から、関係式の証明に進んでいきます。
一般の数学書では、なぜこの式をこの式に変形したのだろう、と1行の変形を理解するのに、他の数学書を参照したり、考察したり、具体例を作って検討したりするものですが、本書では証明に丁寧な説明を織り交ぜて書かれていました。
合わせて自らの手で証明を書くことの大切さについても述べられていて共感を持ちました。
「四元数とは、複素数の自然な拡張である」という視点から、前章で述べられた複素数の性質やベクトルを用いた数の回転の表現などを、四元数ではどのような形で拡張されるのかひとつひとつ丁寧に書かれていました。
世界一美しい式として紹介されたオイラーの公式も、四元数に拡張するとどうなるのかについて検証されていて面白さを感じました。
四元数はコンピュータグラフィックスや飛行体の制御に応用されていことが書かれていて、机上の空論と思われがちな数学ですが、数学が文明や社会を支えていることが伝わりました。
さらに、本書は四元数を越えて「八元数」へ話題を広げています。この数は、超弦理論、M理論などの宇宙や素粒子などの微小なものを研究する物理学に応用されているようです。
ソクラテスが、「自然界は数学という書物で書かれている」といったように、神は私たちに数学を通して真理を見出すよう叡智を与えました。
先人たちが長年かけて「数」の世界を研究し、発展させてきた歴史があり、本書では、古代メソポタミアから長い年月をかけて発展してきた数の概念を、5000年の知恵の結晶と表現されています。
子どもたちも、小学校で1、2,3・・・という数字から勉強し、小数、分数、そして、中学校では、ルート記号を用いた無理数や円周率π、高校では、虚数「i」を学び、複素数という世界まで、数を拡張することを学びます。
数の拡張が、自然数→複素数→四元数→八元数と広がっていくことが述べられている一方、最終章では、虚数「i」に類するものとして「i´」という数を定義し、そこから平行して別方向へ同様の議論を用いて数を拡張してみようとする試みから、数の世界を広げることについても述べられていました。
ものごとが直線上を一方向に進んでいくわけではないという考え方や、可能性の広げ方、さらには、拡張しよう、広げようとする際に「何をもって数とするのか」と本質に立ち返り、見直していく姿勢を学ぶことができます。
そのようにして拡張された数の世界を本書では、split複素数→split四元数→split八元数と紹介し、そこから相対性理論やゲージ理論をはじめとする物理学への応用にも発展すると述べられています。
専門的な内容は数式の羅列で少し読むのがしんどい・・・と感じるところもあると思います。
そんなときは、「少しでもわかることがあれば・・・」というくらいの軽い気持ちで眺めるように読みながら、著者の労力や意図に思いを沿わせて好意的に解釈するようにしています。
そうして大人たちが数学や科学を楽しむ想念は、子どもたちの学びの環境づくりにもつながってくるのではないでしょうか。
「理解しよう」「理解しなければならない」と真面目に考え過ぎると伸びる目を摘んでしまうことがあります。分からないことはいったん保留にする、それはそれでOK!という心の使い方も、数学書を通して身につけられると思います。
本書は、中高生の皆さんや、専門的に理数を学ばれている大学生にとって、学びをサポートしてくれる本であるばかりではなく、一般の方々にとっても、数の広がりを通して、心の広がりを体感できる、そんな一冊となるのではないでしょうか。
数学を愛することは、目に見えないものを信じ、受け入れ、そして変容を通して拡張し、許容し、包み込んでいく、そんな精神を培ってくれます。
そのような、数学の世界からのアプローチと科学が手を結び、柔らかな愛とやさしさの意志を基盤とした科学が私たちの地球にもたらされることを願い、まっちゃんの『数の世界』の所感として寄稿します。
まっちゃんの友人 とがのえみ
■ 書籍
『数の世界』、松岡学、
■ とがのえみ先生
理系子育てアドバイザー、京都府出身。
大学・大学院の教育学部で数学を専攻し、 教員免許を小学校から高校まで計7枚取得。 地元の公立高校に11年間勤務したのち独立。
近年は、幼児や小学生を中心とした算数教育を展開している。 算数の電子テキストの販売やネットによるアメリカンスクールの授業など、 算数活動を多岐に展開している。
また、起業サポートも行っており、 その事務能力は高い評価を得ている。